「腎機能が悪い」「尿蛋白が出ている」と言われた方へ
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、腎臓の働きが低下した状態や、蛋白尿など腎臓の異常が長期間続いている状態です。現在、日本では約2,000万人、成人のおよそ5人に1人がCKDに該当すると推定されています。
CKDの大きな特徴は、初期にはほとんど症状がないことです。健康診断で「クレアチニンが高い」「eGFRが低い」「尿蛋白が出ている」「尿潜血を指摘された」と言われたことをきっかけに、初めて見つかるケースも少なくありません。早い段階から適切に評価し、血圧、糖尿病、食事、生活習慣、薬物療法などを管理することが重要です。
なかがわ内科のCKD診療
腎機能の「数字」だけでなく、なぜ腎機能が低下しているのかまで考えます。院長はこれまで、腎生検などによって腎臓病の原疾患を診断し、その結果に基づいて治療方針を決める診療に携わってきました。
現在のクリニックでは腎生検そのものは行いませんが、安定したCKDとして当院で経過をみてよいのか、腎炎などを疑って腎生検を含む精密検査が可能な専門病院へ紹介すべきかを判断し、必要な場合には適切なタイミングで連携します。
腎臓のはたらき
腎臓は尿を作るだけでなく、老廃物の排泄、水分・電解質・酸塩基平衡の調節、血圧調節、赤血球を作るホルモンの産生、ビタミンDの活性化など、全身のバランスを保つ重要な役割を担っています。腎機能が低下すると、むくみ・高血圧・貧血・高カリウム血症・骨ミネラル異常などが起こることがあります。
- 老廃物を尿として排泄
体に不要な老廃物を尿として体の外に出します。
- 体の水分量を調節
尿の量を調節し、体の水分バランスを保ちます。
- ナトリウム・カリウムなどの電解質を調節
体に必要な電解質の量を適切に保ちます。
- 血圧を調節
体内の水分量やホルモンの働きにより、血圧を適切に保ちます。
- 赤血球をつくるホルモンを産生
エリスロポエチンというホルモンをつくり、赤血球の産生を促します。
- ビタミンDを活性化し骨を守る
ビタミンDを活性型に変え、カルシウムの吸収を助けて骨の健康を守ります。
CKDとは
CKDは、次の1と2のどちらか、または両方が3か月以上続く状態です。
- 蛋白尿・アルブミン尿、血尿、尿沈渣異常、画像・構造異常など、腎臓に何らかの障害がある。
- eGFRが60mL/分/1.73㎡未満である。
一度だけeGFRが低かったからといって、すぐにCKDと決まるわけではありません。脱水、発熱、感染症、薬剤などで一時的に腎機能が悪化することもあるため、過去の健診や血液検査と比較して経過を確認します。
CKDが重要な理由
CKDが進行すると、血液透析・腹膜透析・腎移植などの腎代替療法が必要になる場合があります。ただし、CKDになったら必ず透析になるわけではありません。将来のリスクは、eGFR、蛋白尿の程度、腎機能低下のスピード、原因疾患、血圧、糖尿病、年齢などを総合して考えます。
またCKDでは、心筋梗塞、狭心症、心不全、脳梗塞、脳出血などの心血管疾患のリスクも高くなります。腎臓と同時に、心臓・血管を守る視点が必要です。
CKDの診断
クレアチニン
クレアチニン(Cr)は筋肉の代謝で生じ、主に腎臓から尿へ排泄される物質です。簡便で広く使われますが、筋肉量の影響を受けるため、筋肉量が多い方では高く、高齢者ややせた方では低く出やすい特徴があります。
eGFR
eGFR(推算糸球体濾過量)は、血清クレアチニン値などから腎臓がどの程度血液をろ過できるかを推定した数値です。数字が小さいほど腎機能は低下しています。ただし、eGFRが60以上でも、蛋白尿など腎障害を示す所見があればCKDに該当することがあります。年齢や体格、過去からの推移も含めて総合的に判断します。
ただし、eGFRだけでCKDの重症度は決まりません。同じeGFRでも、蛋白尿が多いほど将来の腎機能低下や心血管疾患のリスクが高くなります。また、現在の値だけでなく、数年間でどの程度変化しているかも重要です。
シスタチンC
クレアチニンによる評価が実際の腎機能とずれる可能性がある場合には、シスタチンCが役立ちます。シスタチンCは筋肉量の影響を受けにくく、高齢者、やせた方、筋肉量が非常に少ない方・多い方などで有用です。シスタチンCからもeGFRを算出でき、クレアチニンによるeGFRと比較することで、より正確に判断できる場合があります。
CKD重症度分類
CKDはeGFR(G1~G5)とアルブミン尿・蛋白尿(A1~A3)を組み合わせて評価します。GFRが同じでも、蛋白尿が多いほどリスクは高くなります。腎機能(eGFR)だけでなく、尿アルブミン(蛋白尿)の程度も合わせて評価することで、将来の腎不全や心血管疾患のリスクをより正確に予測できます。糖尿病性腎臓病では、アルブミン尿、高血圧・腎炎などでは蛋白尿定量を目安にします。
尿蛋白・尿潜血を指摘されたら
尿蛋白
尿蛋白は、CKDを早期に見つける重要なサインです。糸球体が障害されると、本来血液中に残る蛋白質が尿へ漏れます。一般に蛋白尿が多いほど、将来の腎機能低下や心血管疾患のリスクが高くなります。
一方、脱水、発熱、激しい運動、強いストレスなどで一時的に陽性になることもあります。「1+」だけで重症と判断せず、必要に応じて尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)などで定量します。
尿潜血
尿潜血の原因には、IgA腎症などの糸球体腎炎、尿路結石、膀胱炎・腎盂腎炎、前立腺疾患、腎・尿路系の腫瘍などがあります。特に「尿蛋白+尿潜血」の組み合わせは、糸球体腎炎など腎臓そのものの病気を疑う重要な所見です。尿沈渣などを確認し、必要に応じて専門医療機関での精密検査を検討します。
CKDの主な原因
高血圧性腎硬化症
長期間の高血圧で腎臓の細い血管が傷み、徐々に腎機能が低下します。腎機能低下によってさらに血圧が上がりやすくなるため、悪循環を断つ血圧管理が重要です。高齢化に伴って罹患する方が増えてきています。
糖尿病関連腎臓病(DKD)
糖尿病はCKDの重要な原因の一つです。長期間の高血糖によって糸球体や血管が障害され、蛋白尿や腎機能低下を起こします。典型的な糖尿病性腎症だけでなく、糖尿病に伴うさまざまな腎障害を含めて糖尿病関連腎臓病(DKD)と呼びます。長年、透析導入の主な原因の第1位を占めてきましたが、近年は治療の進歩により腎機能を守る選択肢が増えています。
IgA腎症などの慢性糸球体腎炎
糸球体に炎症が起こる病気で、健診の尿潜血・蛋白尿から見つかることがあります。病型によって治療が異なり、必要に応じて腎生検で診断を確定します。治療の進歩が著しい分野ですが、自覚症状が乏しいままCKDが進行していることもあるため、尿異常を放置しないことが大切です。
多発性嚢胞(のうほう)腎
両側の腎臓に多数の嚢胞ができ、徐々に腎臓が大きくなる遺伝性疾患です。家族に多発性嚢胞腎や透析を受けている方がいる場合には注意が必要で、超音波検査をきっかけに見つかることもあります。病状に応じて、腎臓の腫大や腎機能低下の進行を抑える治療薬が用いられることもあります。
その他、膠原病・自己免疫疾患、血管炎、尿路結石、前立腺肥大などによる尿路閉塞、薬剤性腎障害、急性腎障害(AKI)後、先天性・遺伝性腎疾患などもCKDの原因になります。
出典:日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況2024」補足表17をもとに作成
専門病院への紹介と腎生検
CKDのすべての患者さんが大学病院・総合病院へ通院する必要はありません。高血圧、糖尿病、加齢などに伴う安定したCKDであれば、クリニックで定期管理できる患者さんも多くいらっしゃいます。
当院では、専門病院へ紹介するべき患者さんを見極め、適切なタイミングで連携します。
クリニックで経過観察しやすい例
- 高血圧・糖尿病に伴う安定したCKD
- eGFR低下が緩やか
- 蛋白尿が軽度
- 全身状態が安定
専門病院へ紹介を検討する例
- 蛋白尿が多い、または蛋白尿と血尿を同時に認める
- 腎機能が急速に低下している
- 比較的若い、または年齢の割に腎機能低下が強い
- 原因がはっきりしない
- 糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、膠原病・血管炎などが疑われる
- 多発性嚢胞腎など特殊な腎疾患が疑われる
- 腎生検が必要と考えられる
- 高度なCKDで腎代替療法の検討が必要
腎生検とは
腎生検は、腎臓の組織を少量採取し、腎炎の種類、炎症の程度、慢性化の程度などを調べる検査です。診断によってステロイドや免疫抑制薬などの治療方針が大きく変わることがあります。
当院では腎生検そのものは行っていませんが、院長のこれまでの経験を生かし、どの患者さんを、どのタイミングで腎生検などが可能な専門医療機関へ紹介すべきかを判断しています。専門病院での検査・治療後、状態が安定すれば、連携しながら当院で定期診療を継続することも可能です。
当院で行う検査
血液検査
クレアチニン・eGFR、シスタチンC、BUN、電解質、貧血、血糖・HbA1c、尿酸、脂質などを確認します。原因となる腎疾患が疑われる場合には、必要に応じて追加検査を行います。
尿検査
尿蛋白、尿潜血、尿蛋白/クレアチニン比、尿沈渣などを評価します。尿所見は腎臓病の原因を考えるうえで重要な手がかりになります。
腎臓超音波検査
腎臓の大きさ・萎縮・左右差、水腎症、嚢胞、結石、腫瘤などを確認します。血液・尿検査では分からない形態的な情報が得られます。
CKDの治療
慢性的な障害が固定した腎組織を元の状態に戻すことは難しいため、CKD治療の目的は、残っている腎機能をできるだけ長く守ることです。同時に、心臓や脳などの血管を守ることも重要です。
血圧を管理する
高血圧はCKDを進行させる重要な因子です。2026年の日本腎臓学会ステートメントでは、原則として診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満を目標とする考え方が示されています。ただし高齢者、フレイル、立ちくらみ、進行した腎機能低下、高カリウム血症、脱水・急性腎障害リスクなどがある場合は個別化します。
蛋白尿を伴うCKDでは、ACE阻害薬・ARBなどが血圧を下げるだけでなく腎保護目的でも重要です。開始後はクレアチニン、eGFR、カリウムなどを確認します。
腎臓を守る薬
SGLT2阻害薬はCKD治療を大きく変えた薬の一つです。腎機能低下を遅らせ、心不全や心血管リスクを減らす作用が明らかになっており、腎機能や蛋白尿、基礎疾患によっては糖尿病がないCKD患者さんにも使用されます。脱水、尿路・性器感染症、シックデイには注意が必要です。
糖尿病・生活習慣を管理する
糖尿病がある方では、年齢、腎機能、低血糖リスク、使用薬を考慮し、患者さんごとに血糖管理目標を決めます。肥満、運動不足、喫煙もCKD進行や心血管疾患に関係するため、無理のない運動、適正体重の維持、禁煙を行います。
食事
減塩はCKD治療の基本です。しょうゆ、みそ、漬物、麺類の汁、加工食品、外食などからの食塩摂取に注意します。一方、蛋白質は減らせば減らすほどよいわけではありません。特に高齢者では、過度な蛋白制限により筋肉量低下、サルコペニア、フレイル、低栄養を起こす可能性があるため、CKDの程度や年齢、体格、栄養状態に応じて調整します。
薬剤と生活上の注意
腎機能が低下すると、薬を体外へ排泄する能力も低下し、通常量でも体内にたまりやすくなることがあります。また、一部の薬は腎機能を悪化させます。特にNSAIDsと呼ばれる解熱鎮痛薬は、CKD、高齢者、脱水、発熱、下痢・嘔吐などがある状態で急性腎障害を起こすことがあります。処方薬だけでなく、市販薬やサプリメントも含めて確認することが大切です。
CKDが進行した場合の合併症
- 腎性貧血
腎臓で作られるエリスロポエチンが不足し、貧血を起こすことがあります。
- 高カリウム血症
カリウムを十分に排泄できなくなり、高度になると不整脈の原因になります。
- CKD-MBD
リン、カルシウム、ビタミンD、副甲状腺ホルモンなどのバランスが崩れ、骨や血管に影響します。
- むくみ・心不全
塩分や水分を十分に排泄できなくなると、むくみ、体重増加、息切れ、心不全などを起こすことがあります。
こんな方は一度ご相談ください
- 健康診断でeGFRが低い、またはクレアチニンが高いと言われた
- 尿蛋白・尿潜血を指摘された
- 過去の検査結果を見ると腎機能が少しずつ低下している
- 高血圧や糖尿病が長く続いている
- 腎臓に嚢胞があると言われた
- 家族に腎臓病や透析を受けている方がいる
- 市販の鎮痛薬などを長期間使用している
- 自分のCKDがどの程度なのか、腎臓専門医を受診した方がよいのか知りたい
大切なのは「数字」だけではありません
CKD診療では、eGFRの値だけでなく、なぜ腎機能が低下しているのか、蛋白尿・血尿はあるか、どのくらいの速さで変化しているか、専門的な検査が必要な腎疾患が隠れていないかを総合的に考えます。必要な患者さんには適切なタイミングで専門医療機関をご紹介し、連携しながら、できるだけ長くご自身の腎臓を守ることを目標に診療を行います。気になる検査結果がある方は、ぜひ当院にご相談ください。